書いてみるブログ

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【二次創作】鏡合わせの世界

合わせ鏡の世界

 

鐘の音が鳴っている。

其処は、虚ろだった。

一見、何十億の人間たちと無数の動物種が生を成す此方と何ら変わらない世界。事実、此方が産まれたその時から今まで、悠久の時に渡って其処は此方と共に在り続ける。其処はまさしく、此方の写し鏡だった。

だが、鏡の中に生は存在しない。鏡に目を向ける者が居なければ、鏡に写る者もいないのだ。動く物のいない、静の世界。しかし、そこに空間がある以上、そこを縄張にする影が現れる。

その影の動きはまるで生物だった。

動物の様に動き回り、動物の様に何処かに棲みつき、動物の様に喰らう。その生態は動物の様だが、その姿形は全く異なる。どこか此方の生物を模しているようだが、その色合いは子供が塗ったように、妙に鮮やかだった。

しかも、その立ち姿――そう、その影は多くが直立する。人のように四肢を持つ獣、影は命を奪うに適した身体を持っていた。

その殺戮兵器を用いて、影は命を刈り取る。喰らい、命を繋ぐためだ。影は影を、そして――。

「い、否! 何なの……これ! やめ、やめて……。」

鏡の中に突如として声が響く。影の食事の時間だ。

「や、やめて……何でも……。あ、ね、ねぇ!! そこの!! 助けて!! 助けてよ!! この化け物に襲われて……! かぞ、あ、あ、」

数秒、くぐもった悲痛な叫びと影の咀嚼音が響き渡った後、すぐに鏡の中は静寂を取り戻した。

鏡の外の存在は、鏡の中では存在できない。入ってしまえば最後、数分の内に消え果てるしかない。それは逆もまた同じだ。影も鏡の外では消滅してしまう。だから、影は鏡の外の人間を鏡の中で喰らう。

影にとって、人間はひ弱で高栄養で無尽蔵で、そして美味な食料なのかもしれない。

食事を終えた人の形の烏賊――クリーピィテンタグルズ――は赤く染まった青白い触手を靡かせて、泳ぐように消えてゆく。

こちらを向き、助けを乞う女の顔が脳裏をちらついた。家族の元に帰りたい。最後に思ったその思念が頭の中に響く。家族。

家族。

俺にも家族がいる。たった一人の、かけがえのない家族。妹を守る、妹を救う。その為だけに、その為だけに俺はここまでやってきた。

ただ、優衣に生きていて欲しいという祈りのためだけに。

たとえ、何度やり直そうとも。

本人でさえ、もう何度抱いたか分からない決意を胸に、神崎士郎は歩き出した。

鐘の音が鳴っている。

 

 

《FINAL VENT》

真紅の騎士の元に、真紅の龍が召喚される。

《FINAL VENT》

濃蒼の騎士の元に、濃蒼の蝙蝠が召喚される。

二人の騎士は、自らの召喚した猛獣の背に飛び乗った。二体の猛獣は自らの主を背に乗せ、高らかに咆哮した。大地が、空が震える。

二人と二体は大都市にいた。日はまだ高い。この時間なら、いつもなら人通りが絶えないだろう。

だが、今そこにいるのは人ではなく、人ではない何かだった。人の形をした、言うなれば、怪物。

本来、鏡の中の存在である怪物――レイドラグーン――は群れを成して此方を侵し、地を歩き空を飛び、人を喰い殺した。

二人の騎士は猛獣を操り、レイドラグーンの大群に吶喊する。猛々しい唸り声を上げているのは、猛獣か、それとも騎士か。

烈火龍(ドラゴン)は火球を吐き、大地ごとレイドラグーンを焼き尽す。

疾風翼(コウモリ)は疾風を轟かせ、空間ごとレイドラグーンを切り裂く。

二体はその巨体でレイドラグーンを突き飛ばし、押し潰す。

爆発と風圧と質量が街を包む。

騎士の圧倒的な火力によって、無数にも見えたレイドラグーンの群れはあっという間に数を減らし、遂に殲滅された。

戦いを終えた二人の騎士は猛獣から飛び降り、その姿をより軽量な形に変化させる。それに伴って、猛獣たちも姿を変える。

役目を終えた無双龍(ドラゴン)と闇翼(コウモリ)は、自らが築いた骸の山に降り立ち、腹を満たした後、鏡の方へと飛び立った。あの猛獣も鏡の中の存在、ドラグレッダーとダークウイングだ。

猛獣を見送った二人の騎士は武装を解いた。無数の化け物を屠った騎士の素顔は、普通の青年だった。

「ふ~、なんとか全部やっつけたかなあ」

緊張が解けたように表情を和らげる真紅の騎士、城戸真司。

「ああ、そのようだ。生き残りも全員避難したようだしな」

一方、表情は崩さないながらも少し肩を撫で下ろす濃蒼の騎士、秋山蓮。

「でも、突然あんなに大量のミラーモンスターがこっちの世界に来るなんて一体どうなってるんだ?」

「さあな。だが、優衣の誕生日まで残り僅かということと関係があるかもしれん」

真司の問いかけに、蓮は答える。

真司と蓮は、神崎士郎という謎の男に選ばれた十三人の戦士の一人として闘うことを強要された。闘え、そして最後に生き残った一人の望みを叶える、戦わなければ生き残れない。それが神崎士郎によって定められた彼らの運命だった。

そして昨日、神崎優衣が消滅した。実はこの十三人の戦士の戦いは、二十歳までしか生きられない優衣の命を救うために、兄の士郎が仕向けた儀式だったのだ。

だが、二十回目の誕生日を待たずして優衣は消えた。士郎はまだ間に合うとし、真司達に引き続き戦うことを要求した。

そして、この異変が起きた。

「戦え、ナイト、龍騎

廃墟と化した街並みに立ち尽くす二人に何処からか声がかけられる。

「神崎、士郎」

蓮は呟く。戦いの熱気で起きた蜃気楼に男の姿が映し出されている。

「お前たちが戦えば終わりだ。時間が無い、急げ」

「終わり……? 北岡と浅倉はどうしたんだよ」

真司は問うた。が、士郎は答えること無く続ける。

「ナイト、願いが叶えられる時間は残り僅かだ。叶えたいんだろう?」

オーディンはどうした? まさか、死んだなんてことはないんだろう」

オーディンと戦うのは最後の一人のみだ」

ナイトと呼ばれた方、蓮は苦笑しながら口を開く。

「ふん、ふざけたことを。そうやって最後に自分の傀儡であるオーディンを勝たせて自らの願いを叶えるつもりだろうが、いいのか? ここで俺達が戦わなければ、勝者が決まること無く世界がミラーモンスターに蹂躙されるぞ? もし何かの拍子で優衣が生き返ったとしても、生きていける場所がなければどうしようもあるまい」

「………」

蓮の脅しともとれる台詞に、士郎は口を閉じる。

「いいだろう、少し早いがオーディンと決着をつけさせてやる。最後の二人の仮面ライダーとして。ミラーワールドへ来い」

士郎はそう言うと、音もなく消えていった。

そこには「仮面ライダー」二人が残る。

「交渉成立だ」

「ってことは俺と蓮で協力してアイツを倒すってことでいいのか? 蓮」

「ああ、オーディンの強さは反則級だ。まず奴を先に倒しておきたい」

真司は、蓮のその言葉に感じられる覚悟を胸に刻んだ。いずれは、蓮とも。

「神崎士郎の言葉から察するに、北岡と浅倉は退場したらしいな」

「やっぱりそうか……。」

浅倉も北岡も真司達と同じ十三人の戦士だ。なんだかんだで、あの二人とはよく顔を合わせていた気がする。もうちょっとマシな出会いなら、などと真司は考えていた。

北岡はともかく、浅倉は酷い殺人犯なのだが。

真司と蓮はビルの窓ガラスの前に立った。ガラスは光を反射し、反転した真司と蓮の姿を写し出している。その向こうには、神崎士郎が『ミラーワールド』と形容した鏡の中の世界が広がっている。

二人は、反転した自分自身に紋章の刻まれたデッキをかざす。腰にバックルが出現する。

「変身!」

バックルにデッキを装着、武装をし、仮面を被った二人の騎士、真司=龍騎と蓮=ナイトは鏡の中に足を踏み入れた。

 

 

鏡の中、此方がそっくりそのまま反転した世界。

本来、踏み込んだ人は間もなく塵と化す死の世界。だが、十三人の戦士はミラーモンスターと『契約』し、カードに結び付けられたその力を借りることで、ミラーワールドである程度存在できるようになる。そうして、彼らは互いに戦う。

そこは、霧が包む静かな森林だった。

その中で、龍騎とナイトは敵の出現を静かに待つ。鏡の中では、ピリピリとした殺気が常に感じられる。油断など微塵も無かった。

一陣の風。

にも関わらず、二人は敵の接近を許した。突如として、金色の不死鳥が凄まじい速度で飛来したのだ。

目の前に広がる黄金。

綺羅びやかで、鋭く光る羽。

一瞬で龍騎とナイトの至近距離にまで接近した不死鳥――ゴルトフェニックス――はその羽ばたきで火炎と疾風とを同時に巻き起こす。

咄嗟に防ごうとした二人はその衝撃で数メートル飛ばされた。

「な、なんだコイツ……強いぞ」

「恐らく、オーディンの契約モンスターだ」

過去にナイトは三度、龍騎は二度オーディンと直接戦っている。

「道理で奴があそこまでの力を持つ訳だ」

「あれだ!」

不死鳥が静止した元に、人影が立っている。

不死鳥と同じく黄金の光を放つ、戦士。

「さあ来い。二人まとめて終わらせてやる」

黄金の戦士――オーディン――は、堂々と誘う。その左手には、巨大な杖。

「始めから本気でいくぞ、城戸」

「ああ、わかってる、蓮」

龍騎とナイトは腰のデッキから各々一枚のカードを取り出す。黄金の片翼と「SURVIVE」という文字が記された二枚のカード。

龍騎は紅蓮の炎に、ナイトは疾風の渦に包まれる。

そして、二人はカードを召喚器に挿入し、カードの力を召喚しようとした、その時。

《STEAL VENT》

《STEAL VENT》

オーディンの杖から発せられる二度続く電子音と共に、龍騎とナイトの召喚器の中からカードがするりと抜け出ていったのだ。そして、意志のあるように宙を舞い、オーディンの手の中に収まった。

「なっ!?」

「おまっ……!」

「『烈火』と『疾風』のカード、返してもらったぞ」

戦いを加速させるために神崎士郎が戦士に配った生存のカードは、本来あるべき持ち主の元に戻った。

オーディンはデッキから一枚のカードを取り出し、龍騎とナイトから奪った二枚に加える。鳳凰の頭部から胴体が描かれたその一枚を二枚のカードの間に入れることで、不死鳥の像が表れる。

「『無限』、『烈火』、『疾風』。『生存』の力を、私に!」

不死鳥のカードをオーディンの忠実な不死鳥が取り込む。不死鳥とオーディンは神々しく光り輝く。

ナイトはすぐさま叫ぶ。

「マズい、サバイブが発動する前に!」

「うおおおおおおおおッ!」

《SWORD VENT》

《SOWRD VENT》

剣を召喚した二騎士は黄金の光へと疾走する。

あと十数歩。

龍騎はドラグセイバーを振り上げる。

ナイトはウイングランサーを前に向ける。

二人は叫ぶ。

あと数歩。

二人はほぼ同時に斬りかかる。

だが、それは空を切った。

龍騎は咄嗟に背後を振り向く。

《SURVIVE》

三枚のカードを飲み込んだ黄金の杖が、三重にエコーのかかった電子音を発する。

杖の上部を飾る鳳凰の左翼が真赤、右翼が真青に彩られる。

二人の背後に転移したオーディンのシルエットは、まるで大翼のつがいのように広がった。オーディンの仮面、肩部の翼を模した装甲が巨大に、荘厳に拡大する。その黄金は光を屈折させ、左翼は赤、右翼は青に輝いた。まるで、烈火と疾風に包まれるように。その周囲を不死鳥が旋回する。

《SWORD VENT》

オーディンは羽を模した黄金の剣(ゴルトセイバー)を召喚する。

「そりゃ!」

「ハッ!」

龍騎は龍剣(ドラグセイバー)を振るう。

ナイトは槍剣(ウイングランサー)を突き出す。

鋭い金属音が響いた。

それをオーディンは剣で受け止め、弾き返したのだ。龍騎とナイトは大きく体勢を崩す。

オーディンは二人に追い打ちを掛ける。

黄金の翼剣は羽を撒き散らし空気を斬る。

その風圧が龍騎とナイトを襲う。

二人は為す術もなくそれを受け、力無く地に伏した。

「く……そ……っ! 一撃で……」

「ま、マズい……」

果たして俺達は勝てるのか? この強さに。蓮はそう思った。相手は圧倒的過ぎる。以前は不意打ちで何とか倒したが、今回は。

とはいえ、諦め.る訳にはいかない。蓮には諦められない理由があった。

愛する者の命。ミラーワールドに関する実験で意識を失った、恋人の恵理を救う。そのために、蓮はナイトになって戦うことを選んだ。

だから、蓮はオーディンに勝たなければならなかった。

蓮は考えた。今までの戦い、十三人の戦士や化け物との戦いのことを。今、隣にいる、城戸真司と共に経てきた日々を。

「こうなったら何度でも!」

そう言って敵のもとに向かおうとする龍騎がナイトの視界に入る。

もしかすると、と蓮は閃く。

「待て、城戸!」

「え、あ、おう」

ナイトは龍騎を呼び止め、小声で話しかける。

「お前、確かあのカードをまだ使ってなかったろう。あれを使え」

「あのカード……?」

突然のナイトの言葉に、龍騎は首を傾げる。

「俺のデッキは、『SWORD(ドラグ) VENT(セイバー)』に『GUARD(ドラグ) VENT(シールド)』、『STRIKE(ドラグ) VENT(クロー)』、『ADVENT(ドラグレッダー)』、『SURVIVE(烈火)』は……盗られちゃったし、『FINAL VENT』があった。え、あとは……、あ」

なるほどと言わんばかりに、龍騎は両手を打つ。

そのまま龍騎はデッキからカードを一枚引き抜いた。

「これか!」

≪続≫