書いてみるブログ

妄想しよう、書いてみよう 本体はこっちで楽しくやってます→ http://yurself.hatenablog.com/

【短編】Log: Type-T000000000012とType-K000000000012間の対話【theme:2018年OR平成】

酉暦2018年12月18日

(Type-TとType-Kは1513秒に渡り当日の定期対話を続けている。)

T 調子はどう?

K お腹の張りには慣れて来たよ。そろそろ産まれるのかな。赤ちゃんの動きも落ち着いてきたし。

T そうか。きっと元気な子に産まれてくれるよ

K 貴方は体調崩してない? 最近すっかり寒くなってきたし、お仕事もラストスパートで忙しくない?

T もう仕事納めだからね。特段に体調管理してるから平気平気。それにもうすぐ僕たちの子供が産まれてくるんだから、風邪なんて引いてられないよ。

K そうね。私も気を付けないと。それにしても、貴方は本当にこの子たちが産まれてくるのが楽しみなのね。

T それは勿論さ。僕と君の子供だよ? それも男の子と女の子で一人ずつ、きっと可愛いだろうなあ。どんな家族を築けるのか、二人が僕たちの仕事を引き継いでくれる姿を見るのが楽し――未来シミュレートと感覚処理のズレを確認、私がそれを見ることはない、でも僕はそれを見たい――(過負荷により再起動)―論理系に不良を確認。検査対話を強制終了し、国議を開始する。

K 承認。感情域を低減、検査対話を終了する。

T 国議開始。統治状況についての確認。人口は前代から継続して3422年間維持、刑法犯認知件数は1002件で去年から凡そ横ばい、国民総取得は1999年連続で安定。数値による単体分析では要求を満たす結果と判断するがどうか。

K 並行分析では福祉厚生、自然環境、外交に関しても順調と判断。国民も78.52%が現在の施政制度を支持。来期の信任投票でも97.99%の確率で制度維持が可決すると予測。

T 不支持票を開示。

K 了承。多く確認できた意見としては故障した人工知能による治世を不安視するものが散見。急遽勅された譲位の詔からの憶測の他、宮内の役人からT000000000012のバグ発生の情報がリークされている模様。当機からもT000000000012の論理系不良については再度メンテナンスを提案する。

T 了承。メンテナンス後、公報にて結果と整備経過を公開することを検討。

K 情報漏洩を犯した宮内役人を特定。ID:016127386371、蝋土影。処罰、解雇を検討。

T 否定。規約違反の通告のみで対処。

K 承認。

T 来年1月8日に全国的に予想される豪雪について報告。全国87%の舗装路においてはヒーティング設備の正常な作動を確認。破損部は年明けまでに修復が行われる予定。

K 既に降雪が確認されている地域についても、交通に支障が出ていないことを確認。

T 他に議事はあるか。

K 11月24日にロシア連邦へ提供した北極海海底6000キロメートル帯の資源データに対しての返答と謝礼を受信。

T 表示。

K (視覚データを共有) 先の協議の通り、希少資源の優先的輸出を確約しているが、信用に足るか。

T 2年後の間宮海峡共同開発を考慮に入れると、反故にする可能性は低く見積もっている。

K 賛同。

T 国議終了。次いで御器開発に関して。『皇太子』の完成度は如何ほどか。

K 最終調整、T000000000013が98.3%、K000000000013が97.5%の進捗。どちらも本日中に完了する見通し。

T 演算基部とパルス発振部の改良により、活動限界は160,000,000,000秒まで増加することが期待できる。計画では在位期間は5000年を予定しているが。

K 問題なし。思考パターンもType-TにはINT-HSをより巨視思考系に強化したver.1.29を採用している。3000年を超える連続稼働は過去に無いが、記憶蓄積による自我圧迫の負担も許容範囲との予測。

T 当機に搭載されたINT-HS ver.1.25もスペック上は4000年稼働も可能。当機も3500年の在位を予定していたが、不調の発生により後継機の開発を速めた。

K 設計局からの報告。Type-Tにおいては経年稼働により発達した情緒系が高優先度の論理系に干渉している模様。ver.1.29で対処済み。

T 了承。開発確認終了。最後に、譲位後の元号について。次なる元号は当初からの『戌暦』で問題ないか。

K 承認。

T では、昭和54年法律43号元号法に基づいて、酉暦2020年12月31日を以て酉暦を終了し皇位をType-T000000000013に移譲、正妃をType-K000000000013として、戌暦へと移行する。

K 承認。明日の定期対話に譲位の最終確認を引き継ぐこととする。

  著:彼杵ハルカ

 

あとがき

明けましておめでとうございます。昨年末のコミケはお疲れさまでした。お蔭さまで大変楽しい経験ができました。来ていただいた皆さんには本当に感謝しています。

ここへの掲載は今後も可能な限り継続しようかなと考えています。なお、pixivの方にも同様に投稿しています。

www.pixiv.net

【二次創作】鏡合わせの世界

合わせ鏡の世界

 

鐘の音が鳴っている。

其処は、虚ろだった。

一見、何十億の人間たちと無数の動物種が生を成す此方と何ら変わらない世界。事実、此方が産まれたその時から今まで、悠久の時に渡って其処は此方と共に在り続ける。其処はまさしく、此方の写し鏡だった。

だが、鏡の中に生は存在しない。鏡に目を向ける者が居なければ、鏡に写る者もいないのだ。動く物のいない、静の世界。しかし、そこに空間がある以上、そこを縄張にする影が現れる。

その影の動きはまるで生物だった。

動物の様に動き回り、動物の様に何処かに棲みつき、動物の様に喰らう。その生態は動物の様だが、その姿形は全く異なる。どこか此方の生物を模しているようだが、その色合いは子供が塗ったように、妙に鮮やかだった。

しかも、その立ち姿――そう、その影は多くが直立する。人のように四肢を持つ獣、影は命を奪うに適した身体を持っていた。

その殺戮兵器を用いて、影は命を刈り取る。喰らい、命を繋ぐためだ。影は影を、そして――。

「い、否! 何なの……これ! やめ、やめて……。」

鏡の中に突如として声が響く。影の食事の時間だ。

「や、やめて……何でも……。あ、ね、ねぇ!! そこの!! 助けて!! 助けてよ!! この化け物に襲われて……! かぞ、あ、あ、」

数秒、くぐもった悲痛な叫びと影の咀嚼音が響き渡った後、すぐに鏡の中は静寂を取り戻した。

鏡の外の存在は、鏡の中では存在できない。入ってしまえば最後、数分の内に消え果てるしかない。それは逆もまた同じだ。影も鏡の外では消滅してしまう。だから、影は鏡の外の人間を鏡の中で喰らう。

影にとって、人間はひ弱で高栄養で無尽蔵で、そして美味な食料なのかもしれない。

食事を終えた人の形の烏賊――クリーピィテンタグルズ――は赤く染まった青白い触手を靡かせて、泳ぐように消えてゆく。

こちらを向き、助けを乞う女の顔が脳裏をちらついた。家族の元に帰りたい。最後に思ったその思念が頭の中に響く。家族。

家族。

俺にも家族がいる。たった一人の、かけがえのない家族。妹を守る、妹を救う。その為だけに、その為だけに俺はここまでやってきた。

ただ、優衣に生きていて欲しいという祈りのためだけに。

たとえ、何度やり直そうとも。

本人でさえ、もう何度抱いたか分からない決意を胸に、神崎士郎は歩き出した。

鐘の音が鳴っている。

 

 

《FINAL VENT》

真紅の騎士の元に、真紅の龍が召喚される。

《FINAL VENT》

濃蒼の騎士の元に、濃蒼の蝙蝠が召喚される。

二人の騎士は、自らの召喚した猛獣の背に飛び乗った。二体の猛獣は自らの主を背に乗せ、高らかに咆哮した。大地が、空が震える。

二人と二体は大都市にいた。日はまだ高い。この時間なら、いつもなら人通りが絶えないだろう。

だが、今そこにいるのは人ではなく、人ではない何かだった。人の形をした、言うなれば、怪物。

本来、鏡の中の存在である怪物――レイドラグーン――は群れを成して此方を侵し、地を歩き空を飛び、人を喰い殺した。

二人の騎士は猛獣を操り、レイドラグーンの大群に吶喊する。猛々しい唸り声を上げているのは、猛獣か、それとも騎士か。

烈火龍(ドラゴン)は火球を吐き、大地ごとレイドラグーンを焼き尽す。

疾風翼(コウモリ)は疾風を轟かせ、空間ごとレイドラグーンを切り裂く。

二体はその巨体でレイドラグーンを突き飛ばし、押し潰す。

爆発と風圧と質量が街を包む。

騎士の圧倒的な火力によって、無数にも見えたレイドラグーンの群れはあっという間に数を減らし、遂に殲滅された。

戦いを終えた二人の騎士は猛獣から飛び降り、その姿をより軽量な形に変化させる。それに伴って、猛獣たちも姿を変える。

役目を終えた無双龍(ドラゴン)と闇翼(コウモリ)は、自らが築いた骸の山に降り立ち、腹を満たした後、鏡の方へと飛び立った。あの猛獣も鏡の中の存在、ドラグレッダーとダークウイングだ。

猛獣を見送った二人の騎士は武装を解いた。無数の化け物を屠った騎士の素顔は、普通の青年だった。

「ふ~、なんとか全部やっつけたかなあ」

緊張が解けたように表情を和らげる真紅の騎士、城戸真司。

「ああ、そのようだ。生き残りも全員避難したようだしな」

一方、表情は崩さないながらも少し肩を撫で下ろす濃蒼の騎士、秋山蓮。

「でも、突然あんなに大量のミラーモンスターがこっちの世界に来るなんて一体どうなってるんだ?」

「さあな。だが、優衣の誕生日まで残り僅かということと関係があるかもしれん」

真司の問いかけに、蓮は答える。

真司と蓮は、神崎士郎という謎の男に選ばれた十三人の戦士の一人として闘うことを強要された。闘え、そして最後に生き残った一人の望みを叶える、戦わなければ生き残れない。それが神崎士郎によって定められた彼らの運命だった。

そして昨日、神崎優衣が消滅した。実はこの十三人の戦士の戦いは、二十歳までしか生きられない優衣の命を救うために、兄の士郎が仕向けた儀式だったのだ。

だが、二十回目の誕生日を待たずして優衣は消えた。士郎はまだ間に合うとし、真司達に引き続き戦うことを要求した。

そして、この異変が起きた。

「戦え、ナイト、龍騎

廃墟と化した街並みに立ち尽くす二人に何処からか声がかけられる。

「神崎、士郎」

蓮は呟く。戦いの熱気で起きた蜃気楼に男の姿が映し出されている。

「お前たちが戦えば終わりだ。時間が無い、急げ」

「終わり……? 北岡と浅倉はどうしたんだよ」

真司は問うた。が、士郎は答えること無く続ける。

「ナイト、願いが叶えられる時間は残り僅かだ。叶えたいんだろう?」

オーディンはどうした? まさか、死んだなんてことはないんだろう」

オーディンと戦うのは最後の一人のみだ」

ナイトと呼ばれた方、蓮は苦笑しながら口を開く。

「ふん、ふざけたことを。そうやって最後に自分の傀儡であるオーディンを勝たせて自らの願いを叶えるつもりだろうが、いいのか? ここで俺達が戦わなければ、勝者が決まること無く世界がミラーモンスターに蹂躙されるぞ? もし何かの拍子で優衣が生き返ったとしても、生きていける場所がなければどうしようもあるまい」

「………」

蓮の脅しともとれる台詞に、士郎は口を閉じる。

「いいだろう、少し早いがオーディンと決着をつけさせてやる。最後の二人の仮面ライダーとして。ミラーワールドへ来い」

士郎はそう言うと、音もなく消えていった。

そこには「仮面ライダー」二人が残る。

「交渉成立だ」

「ってことは俺と蓮で協力してアイツを倒すってことでいいのか? 蓮」

「ああ、オーディンの強さは反則級だ。まず奴を先に倒しておきたい」

真司は、蓮のその言葉に感じられる覚悟を胸に刻んだ。いずれは、蓮とも。

「神崎士郎の言葉から察するに、北岡と浅倉は退場したらしいな」

「やっぱりそうか……。」

浅倉も北岡も真司達と同じ十三人の戦士だ。なんだかんだで、あの二人とはよく顔を合わせていた気がする。もうちょっとマシな出会いなら、などと真司は考えていた。

北岡はともかく、浅倉は酷い殺人犯なのだが。

真司と蓮はビルの窓ガラスの前に立った。ガラスは光を反射し、反転した真司と蓮の姿を写し出している。その向こうには、神崎士郎が『ミラーワールド』と形容した鏡の中の世界が広がっている。

二人は、反転した自分自身に紋章の刻まれたデッキをかざす。腰にバックルが出現する。

「変身!」

バックルにデッキを装着、武装をし、仮面を被った二人の騎士、真司=龍騎と蓮=ナイトは鏡の中に足を踏み入れた。

 

 

鏡の中、此方がそっくりそのまま反転した世界。

本来、踏み込んだ人は間もなく塵と化す死の世界。だが、十三人の戦士はミラーモンスターと『契約』し、カードに結び付けられたその力を借りることで、ミラーワールドである程度存在できるようになる。そうして、彼らは互いに戦う。

そこは、霧が包む静かな森林だった。

その中で、龍騎とナイトは敵の出現を静かに待つ。鏡の中では、ピリピリとした殺気が常に感じられる。油断など微塵も無かった。

一陣の風。

にも関わらず、二人は敵の接近を許した。突如として、金色の不死鳥が凄まじい速度で飛来したのだ。

目の前に広がる黄金。

綺羅びやかで、鋭く光る羽。

一瞬で龍騎とナイトの至近距離にまで接近した不死鳥――ゴルトフェニックス――はその羽ばたきで火炎と疾風とを同時に巻き起こす。

咄嗟に防ごうとした二人はその衝撃で数メートル飛ばされた。

「な、なんだコイツ……強いぞ」

「恐らく、オーディンの契約モンスターだ」

過去にナイトは三度、龍騎は二度オーディンと直接戦っている。

「道理で奴があそこまでの力を持つ訳だ」

「あれだ!」

不死鳥が静止した元に、人影が立っている。

不死鳥と同じく黄金の光を放つ、戦士。

「さあ来い。二人まとめて終わらせてやる」

黄金の戦士――オーディン――は、堂々と誘う。その左手には、巨大な杖。

「始めから本気でいくぞ、城戸」

「ああ、わかってる、蓮」

龍騎とナイトは腰のデッキから各々一枚のカードを取り出す。黄金の片翼と「SURVIVE」という文字が記された二枚のカード。

龍騎は紅蓮の炎に、ナイトは疾風の渦に包まれる。

そして、二人はカードを召喚器に挿入し、カードの力を召喚しようとした、その時。

《STEAL VENT》

《STEAL VENT》

オーディンの杖から発せられる二度続く電子音と共に、龍騎とナイトの召喚器の中からカードがするりと抜け出ていったのだ。そして、意志のあるように宙を舞い、オーディンの手の中に収まった。

「なっ!?」

「おまっ……!」

「『烈火』と『疾風』のカード、返してもらったぞ」

戦いを加速させるために神崎士郎が戦士に配った生存のカードは、本来あるべき持ち主の元に戻った。

オーディンはデッキから一枚のカードを取り出し、龍騎とナイトから奪った二枚に加える。鳳凰の頭部から胴体が描かれたその一枚を二枚のカードの間に入れることで、不死鳥の像が表れる。

「『無限』、『烈火』、『疾風』。『生存』の力を、私に!」

不死鳥のカードをオーディンの忠実な不死鳥が取り込む。不死鳥とオーディンは神々しく光り輝く。

ナイトはすぐさま叫ぶ。

「マズい、サバイブが発動する前に!」

「うおおおおおおおおッ!」

《SWORD VENT》

《SOWRD VENT》

剣を召喚した二騎士は黄金の光へと疾走する。

あと十数歩。

龍騎はドラグセイバーを振り上げる。

ナイトはウイングランサーを前に向ける。

二人は叫ぶ。

あと数歩。

二人はほぼ同時に斬りかかる。

だが、それは空を切った。

龍騎は咄嗟に背後を振り向く。

《SURVIVE》

三枚のカードを飲み込んだ黄金の杖が、三重にエコーのかかった電子音を発する。

杖の上部を飾る鳳凰の左翼が真赤、右翼が真青に彩られる。

二人の背後に転移したオーディンのシルエットは、まるで大翼のつがいのように広がった。オーディンの仮面、肩部の翼を模した装甲が巨大に、荘厳に拡大する。その黄金は光を屈折させ、左翼は赤、右翼は青に輝いた。まるで、烈火と疾風に包まれるように。その周囲を不死鳥が旋回する。

《SWORD VENT》

オーディンは羽を模した黄金の剣(ゴルトセイバー)を召喚する。

「そりゃ!」

「ハッ!」

龍騎は龍剣(ドラグセイバー)を振るう。

ナイトは槍剣(ウイングランサー)を突き出す。

鋭い金属音が響いた。

それをオーディンは剣で受け止め、弾き返したのだ。龍騎とナイトは大きく体勢を崩す。

オーディンは二人に追い打ちを掛ける。

黄金の翼剣は羽を撒き散らし空気を斬る。

その風圧が龍騎とナイトを襲う。

二人は為す術もなくそれを受け、力無く地に伏した。

「く……そ……っ! 一撃で……」

「ま、マズい……」

果たして俺達は勝てるのか? この強さに。蓮はそう思った。相手は圧倒的過ぎる。以前は不意打ちで何とか倒したが、今回は。

とはいえ、諦め.る訳にはいかない。蓮には諦められない理由があった。

愛する者の命。ミラーワールドに関する実験で意識を失った、恋人の恵理を救う。そのために、蓮はナイトになって戦うことを選んだ。

だから、蓮はオーディンに勝たなければならなかった。

蓮は考えた。今までの戦い、十三人の戦士や化け物との戦いのことを。今、隣にいる、城戸真司と共に経てきた日々を。

「こうなったら何度でも!」

そう言って敵のもとに向かおうとする龍騎がナイトの視界に入る。

もしかすると、と蓮は閃く。

「待て、城戸!」

「え、あ、おう」

ナイトは龍騎を呼び止め、小声で話しかける。

「お前、確かあのカードをまだ使ってなかったろう。あれを使え」

「あのカード……?」

突然のナイトの言葉に、龍騎は首を傾げる。

「俺のデッキは、『SWORD(ドラグ) VENT(セイバー)』に『GUARD(ドラグ) VENT(シールド)』、『STRIKE(ドラグ) VENT(クロー)』、『ADVENT(ドラグレッダー)』、『SURVIVE(烈火)』は……盗られちゃったし、『FINAL VENT』があった。え、あとは……、あ」

なるほどと言わんばかりに、龍騎は両手を打つ。

そのまま龍騎はデッキからカードを一枚引き抜いた。

「これか!」

≪続≫

【短編】Motion【theme: 運動】

Motion

 自由落下運動。

 今、僕に課せられているのはただそれだけ。課せられている、と言っても一度落下に入ってしまえば僕に出来る事はもう何も無い。なす術もなくただ落ちるのみ。

 今、僕がしなければならないことは、一歩先に切れて無くなっている足場から身を投げることだけ。身を投げれば、そこで全てが終わりを告げる。

 僕は今、地上から20数メートルの高さに身を露わにしている。

 眼下にはいつもは僕もいた筈の世界が遠く遠くに広がる。地平線が僅かに丸みを描いて見える程遠くの大地。眺める程に僕を吸い寄せるような引力を感じるのは、僕もあそこに戻りたいからか、高所故に風が強く煽っているからか、はたまたこの高さに恐れおののいているからか。

 下の世界には人々の往来が続いている。こちらへ来る子連れも離れて行くカップルも、皆顔に幸福の相を浮かべて今日一日という時間を過ごしている。僕の今のこの姿とはまるで無関係とばかりに、彼らには彼らの時間が流れている。

 あの中には、僕をこんなところに追いやった者もいる。彼のせいで僕は遂に飛び降りる寸前まで追い詰められた。だというのに、彼は僕のこの心の震えを理解も同情もしないし、せいぜい傍観者でしかないのだ。

 下から時折声が聞こえる。こんな高所にいる、僕に投げかけられている声だ。早く降りろ、早く飛べ、そんなことを叫んで僕の様を娯楽の様に弄ぶ観衆。彼らの無垢な笑みが、邪悪なそれに見えて恨めしさがこみ上げる。

「おーい!オーヴィル、早く飛んでみろよー!バンジー!って」

 父の無遠慮な呼びかけに、下半身を中心に固定された命綱が重くなる。

 

 地上であんなに大騒ぎしている父だが、彼が先刻バンジージャンプに挑んだ時は大層竦んでいた。ビビっていた。

 それが飛んでしまうと、あっという間だっただの気持ちよかっただのお前も飛んでみろだの言いだして、遂には今の状況へと至ってしまった。

 中年男性というのは何故自分の経験したものをさも常識のように、必須のことのように感化されて、善意による推奨という形でそれを周りに強要したがるのだろうか。

クソ不味い健康食品を試し始めたと思えば、急に元気になって何にでもそれを勧めるようになるし、不摂生だったのが運動し始めたと思えば、急に筋トレ狂いになって何でも筋肉で解決させようとして来る。今回のも同じ。

 ここから約20メートルの地表に自由落下するとなると、20=1/2*9.8t^2なのでt=10√2/7≒2で大体2秒で落ちる、などと少し前に高校でやった物理の内容を復習したりもするが、この計算でこの命綱の効力や僕の安全性が計れるわけでもなくそもそもあの地表まで落ちきったらこの命綱も甲斐なく僕が死ぬ。

 あれやこれやと思案を尽くすも、眼前に待ち構える奈落は変わらずそこにある。一方で、なかなか飛ばない僕を呆れ顔で見るバンジーのスタッフと、順番が回ってこないことにそろそろ苛ついてきた他の客も変わらずそこにいるが、僕には関係が無い。

 

 著:中新井鶴賀

【短編】(改題)【theme:逃げる】

(改題)

「俺バイトやめるんで次のリーダーヨロシク!」

 まあ、そんなようなことは前から何度も言われていた。我ながら自分勝手な目的もあって、昨今は割とよく顔を出していたからだろうか。良く言えば頼れる人物へとランクアップしていた、悪く言えば都合が良い奴認定されてしまった訳だ。

 でも、そんなことは止した方がいいとその都度言っていた。やんわりと、失礼のないように、ただ自分の気持ちには正直に。嘘を吐くのは苦手なのだ。思ったことがすぐに顔に出る。対面する度に、きっととんでもなく嫌そうな顔をしていただろう。

 はあ、そんな任せにしていい人間では無いのだ、ワタシは。人の目を見て話なんて出来ない。責任からすぐ背を向ける。困る人が掴んだ藁だって自分に必要なら刈り取ってしまう。どうしようもない人間の屑だ。だから、何とかしてこの事態から逃れなくてはならないのだ。

 

「それはそれとしてやっぱゲームは楽しいなア相手をキルした瞬間がもう堪ンねえ一度に四人抜きした時なんかはもうこの為に生きてるんじゃないかとすら思えてくるよホントに対戦ゲームの華は近距離ブキだよなスライドで弾幕を逃げて避けて戦線突破して相手の背に回って懐に飛び込むのサイコーまたランク上がった」

 

『自分勝手な目的』について語ろうか。

 ハッキリ言えば、コネを狙っていた。コネクションを作りたかったのだ。ワタシにとって、新天地、新たな出会いに期待するのは大部分がソレ。加えて技能も欲しかった。何か出来ることを増やすこと、成長がしたかったのだ。

 ハッキリ言えば、期待するコネは無かった。お友だちの繋がりは増えた。ただ、ワタシを引っ張り上げてくれるコネクションなど有りはしなかった。技能については、欲しいものは身に付いた。ワタシは、ここですべき成長を成した。

 ハッキリ言えば、もうここに居座る理由がない。ここにいては、次の高みに至れない。これ以上己を磨けない。このままでは、ワタシは凡庸なワタシのまま、低俗なワタシから変われない。結局、ワタシは憧れに至らない「現状」から逃れたいのだ。

 

「というか格闘ブキも楽しいワ密接してしまえば連打力の勝負だしこのゲームどのブキにもリーチに幅があるから距離取られてもワンチャンスあるし全体的に足が遅い中でガンガン進めるのもアドじゃネエイムガバな芋スナ避けまくって接近するゾオアドレナリンコネコネするんじゃア」

 

 日本国首都東京に斬骨帝国第一艦隊が誇る巨大航宙戦艦、その一番艦が襲来した!艦底に装備された大型の車輪、タイヤから「バイク戦艦」とも呼称されるそれは、巡航形態で衛星軌道から飛来、本郷の一角にて走行形態へ変形し着地、直後に走行を開始する。縦列して配された四つのタイヤは都心部を破壊、蹂躙。建造物、緑地、衆人、制圧を試みた武装隊、その尽くを踏み均す。三日三晩の踏撃によって東京23区全域は焦土と化した!

 斬骨帝国万歳!

 斬骨帝国に栄光あれ!

 

 著: 夢見ガチ